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自筆証書遺言の有効要件

自筆証書遺言の有効要件

Q

高齢の父が遺言書を作成しています。内容をよく考えながらゆっくりと自筆で書いていたところ,あと少しで完成という状態で,薬の副作用で手が震えて字が書けなくなりました。父は,遺言の内容は全部自筆で書いたから,残る日付と署名だけは娘の私が代筆すればよいだろうというのですが,この場合,遺言として有効になりますか。

A

1 自筆証書遺言とは
 遺言者が誰にも知られず自ら作成する遺言を「自筆証書遺言」と言います。自筆証書遺言は,作成が簡易で費用もかからない点がメリットですが,紛失・隠匿・改ざんの恐れが高いこと,方式や内容が不完全であることを理由とした問題が生じやすいというデメリットもあります。なお,自筆証書遺言を発見した場合は,速やかに家庭裁判所の検認手続きを受ける必要があります(民法1004条以下)。なお,検認とは遺言所の改ざん等を防止するために遺言書の現状を保全するための手続きであり,検認を受けたことで遺言が有効になるなどの効果はありません。

2 自筆証書遺言の形式的有効要件
(1)全文手書きの要請
 自筆証書遺言が形式的に有効であるためには,遺言者がその全文,日付及び氏名を自書し,これに押印して作成することが必要です(民法968条)。遺言は遺言者が死亡した後に効力が発生しますが,その時点で遺言者はこの世にいないため直接意思を確認することができません。そこで,作成後の改ざんを防ぎ,遺言が遺言者自身の意思で書かれたことを明確にするため,自筆証書遺言では全文手書きが要求されているのです。
 したがって,たとえ文書の一部であっても自書(手書き)以外の方法で書かれているもの,たとえば,ワープロや他人の代筆によって作成された自筆証書遺言は形式上無効となります。
(2)作成日特定の要請
 また,遺言はその作成日付の記載が必要です(民法968条)。
遺言は遺言者の高齢時に作成されることが多いため,事後に,遺言能力の有無に関する争いが起きることがあります。こうした場合,遺言がどの時点でなされたかが大きな鍵となります。
また,複数の遺言がある場合,作成日が後であるものを優先します(民法1023条)。遺言は遺言者の死後の権利関係を遺言者自身の意思で決定させるためのものですから,死亡時に最も近い意志を尊重するためこのように定められているのです。
このように,遺言の作成日付は重要な意義を持つことから,作成の日付がその記載によって特定できることが遺言の有効要件となっています。したがって,「満80歳の誕生日」という記載は,特定の日付が特定できるため有効である一方,「平成20年3月」,「平成22年初秋」のように具体的な日が特定できない記載は,遺言自体が無効になります。

3 ご質問について
 ご質問では,遺言の本文はすべて自筆で書かれていますが,署名と日付を書く前に自筆が困難となったため,娘に代筆を頼んでいます。上記の通り,自筆証書遺言は全文自筆を要請しており,たとえ一部であっても他人による代筆があれば,遺言自体が無効となります。また,署名や日付を欠く遺言も無効ですから,この場合,公正証書遺言や秘密証書遺言等の別の遺言方法をとるしかありません。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
遠藤常二郎『遺言実務入門作成から執行までの道標』三協法規
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院

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