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生命保険金は遺産に含まれるか

生命保険金は遺産に含まれるか

Q

15年前に父が他界して以降,私が引き取って介護してきた母が亡くなりました。相続人は長男の私と次男の2人です。母の貸金庫を調べると,約8000万円分の預金通帳と,受取人を「長男A」(私)と指定する300万円の生命保険証券が出てきました。次男は,この300万円は母から私への贈与と同じなのだから,特別受益として持ち戻すべきだというのですが,その必要はありますか。

A

1 生命保険と遺産該当性
生命保険には様々な契約類型がありますが,ご質問の場合のように,受取人を特定人(長男A)と指定した場合には,受取人は保険金請求権を自分自身の権利として取得します。つまり,この生命保険金は遺産ではなく,他の相続人と分割する必要はありません(生命保険と遺産該当性の詳細は1.013をご参照ください)。

2 生命保険と特別受益
 生命保険金が遺産に含まれないとしても,被相続人の死亡によって相続人が一定の金員を受領するという状況は,遺産分割の場面における遺贈と類似していることは明らかです。そこで,生命保険金が特定個人の受け取りになる場合には,その受け取り行為は特別受益に該当し,持ち戻しの対象とすべきではないかが古くから論じられてきました(特別受益の詳細は1.032をご参照ください)。
この点に関し,最高裁は,「保険金受取人と他の共同相続人との間に到底是認できないほどの不公平が生じる特段の事情がある場合」には,保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると判示し,問題の解決を図っています(最決平成16・10・29民集58・7・1979)。

3 最高裁判例の事情
「到底是認できないほどの不公平」の判断事情としては,保険金の額,遺産総額に対する割合,被相続人に対する介護等の貢献度合い,各相続人の生活実態等が挙げられており,こうした事情を総合的に勘案して判断することになります。上記最高裁判例の事情を見てみましょう。
【最決平成16・10・29民集58・7・1979】
相次いで亡くなった父母の遺産分割について,父母と10年ほど同居してきた長男を受取人とする約570万円の生命保険(養老保険)について,他の相続人(きょうだいら)3名が持ち戻しを主張して争った。この時点で,相続人ら4名はそれぞれ,約1000万~1400万円の遺産を受領済みであり,さらに約1100万円相当の土地を分割する予定であったため,遺産総額は6000万円ほどである。長男は,父母のために自宅を増築し,父母が亡くなるまでの約10年同居し,母が父の介護を行うのを手伝っていた。これら事情のもとで,保険金受取人と他の共同相続人との間に到底是認できないほどの不公平が生じる特段の事情があるとは言えず,長男が受け取った生命保険金は持ち戻し対象ではないと判断した。
この判例から,生命保険金額が遺産総額の1割程度で,受け取った相続人が,被相続人を介護してきた等の事情がある場合は,生命保険金の持ち戻しの必要は無いと判断される可能性があることがわかります。

4 ご質問について
 ご質問を見ると,まず,300万円の生命保険は長男を受取人と指定しているため,長男固有の権利となり遺産分割の対象となりません。
そして,この300万円を持ち戻す必要があるかをみると,遺産総額8000万円に対する生命保険金300万円は1割にも満たないうえ,長男は母を長年同居介護してきたことから,「他の共同相続人との間に到底是認できないほどの不公平が生じる特段の事情」は認められず,持ち戻しの必要はないと言えるでしょう。約8000万円の遺産は長男と次男との間で均等に分割してよいと思われます。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
高岡信男『相続・遺言の法律相談』学陽書房
東京弁護士会相続・遺言研究部編『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
安達敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版

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