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遺産の評価時期と評価額(預金・不動産・株式など)

遺産の評価時期と評価額(預金・不動産・株式など)

Q

父が10年前に亡くなり遺産分割手続をしないまま現在に至ります。このたび,母の病気をきっかけに父名義の遺産の評価をしたところ,父死亡時に比べ,土地の価値は半分程度に下がり,株は3倍ほど値上がりしていました。遺産分割の前提として,遺産の額はどのように評価したらいいでしょうか。

A

遺産分割協議は,総遺産を具体的相続分に応じて相続人に適正に分配することを目的とする手続きです。したがって,適正な遺産分配の前提として,各遺産の価値を公平公正に評価する必要があります。
もっとも,遺産の中には,不動産・株等の有価証券など,時間の経過によって価値の変動する財産がしばしば含まれます。そのうえ,遺産分割には時間制限がないため,遺産分割協議が成立するまでの間に遺産の価値が大幅に変わってしまうことも珍しくありません。そこで,遺産の評価に関してはその時期と方法が問題となります。

1 評価時期
 遺産の評価時期については,相続開始の時点を基準時とする立場と,遺産分割協議時を基準時とするという二つの立場が有力です。現在の家庭裁判所の審判・調停においては,相続人間の公平や,評価のわかりやすさの観点から遺産分割の時(審判確定時)とするのが一般的な取扱いです(札幌高決昭和38・11・21家月17・2・38)。

2 評価方法
(1)現金・預貯金・動産
 現金は額面そのものを評価額とします。預貯金は金融機関の残高証明書による現在高で確認します。
 動産のうち,宝石,骨董等の客観的な交換価値を有するものは,市場価格や購入価格を参考に,相続人間の合意を形成します。評価が分かれる場合には鑑定を要する場合もあります。家財道具など交換価値が低いものは,いわゆる形見分けの形で分配するなど,合意によって遺産分割の対象から除外する取り扱いが一般的です。
(2)不動産
不動産は,固定資産税評価額,路線価,公示価格等を参考にして時価を算定し,当事者間で合意が得られればその額を評価額とします。争いがある場合は,専門家の意見として,不動産鑑定士による鑑定結果を参考に評価額を定めることもあります。
(3)株式
 株式は,上場されていれば分割時にもっとも近接した時点での取引価格,または近接する一定期間の平均値によって算定します。非上場株式はやや複雑で,商法上の株式買取請求における価格の算定方法を組み合わせたり,相続税計算のための評価方法を用いるなどの手法があります。算出には高度の知識が必要ですので,公認会計士等による鑑定が必要となる場合もあります。家庭裁判所の調停では,当該事件を担当する調停委員以外の調停委員に公認会計士を任命し,意見を聴取する手法も取られています。

3 結論
 ご質問のケースでも,遺産分割時を基準にし,遺産の種類ごとに適切な評価方法を用いて相続人間での評価額の合意形成を目指すことになります。

参考文献
高岡信男『相続・遺言の法律相談』学陽書房
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
上原裕之・高山浩平・長秀之『リーガルプログレッシブシリーズ10遺産分割』青林書院
東京弁護士会法友全期会相続実務研究会編『遺産分割実務マニュアル』ぎょうせい
東京弁護士会相続・遺言研究部編「遺産分割・遺言の法律相談」青林書院

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