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賃借人の死亡と内縁の妻の居住権

賃借人の死亡と内縁の妻の居住権

Q

私は,5年前から内縁の夫が自分名義で借りたアパートで一緒に暮らしていました。先月,夫が亡くなり葬儀が終わると,大家から正式な夫婦ではないのですぐに出て行ってくれと言われました。私は出て行かなければいけませんか。

A

1 賃借権の相続
 不動産賃借権の借主が死亡した場合,その賃借権は,相続の対象となります。そして,不動産賃借権は,相続開始によりいったん共同相続人による準共有状態となり,遺産分割協議を経て特定の相続人の帰属に至ります。

2 内縁の妻の居住権
内縁の妻は相続人ではないため,借主であった被相続人の死亡により直ちに退去しなければならないかが問題となります。この点は亡くなった借主に相続人がある場合とない場合とで異なりますので分けて考えましょう。
(1)借主に相続人がない場合
 この場合,借地借家法による解決がなされています。居住用建物の賃借人が相続人なく死亡した場合,事実婚関係や事実上の養親子であった同居者は賃借人の地位を承継するため(借地借家法36条)当然に賃借権を取得し,これを根拠に居住を継続できます。
(2)借主に相続人がある場合
ア 賃貸人との関係
この場合を規定した法令はありませんが,最高裁は借主死亡後に内縁の妻が家主から退去を求められた事案で「被相続人の死亡まで,内縁の妻は被相続人の賃借権を援用して居住できたのだから,被相続人の死後は,相続人に承継された賃借権を援用して居住を継続できる」と判示し,残された内縁の妻は家主の明け渡し請求に対抗できるとしています(最判昭和42・2・21民集21・1・155)。また,内縁の妻は賃借人にはならないため,賃借人との関係では賃料支払い義務を負うことはありません。
イ 相続人との関係
相続人がいれば,賃借権は内縁の妻ではなく相続人に承継されるため賃貸借契約の当事者は賃貸人と相続人です。そこで,賃貸人と相続人とが合意により賃貸借契約を解除したり,相続人が借家権を放棄して内縁の妻を追い出せるかという問題が生じます。
この点につき,賃貸人と相続人による合意解除は信義誠実の原則に反しない特段の事情がある場合を除いて内縁の妻に対抗できないとする判例(東京地判昭和63・4・25判時1327・51)や,相続人による借家権放棄は共同生活者との関係でその生活を覆すもので無効であるとした判例(大阪地判昭和38・3・30判時338・34)があります。このように,判例は内縁の妻の居住権を保護する傾向にあります。もっとも,賃借人となった相続人が賃料を支払わないために賃貸人から債務不履行解除された場合には,今のところ内縁の妻を保護する明確な法的構成がなく,立法的な解決が望まれるところです。

3 ご質問について
内縁の夫に相続人がない場合は,借地借家法36条により借地権が内縁の妻に承継される結果,内縁の妻は新たな賃借人となります。また,内縁の夫に相続人がある場合は,相続人に承継された賃借権を援用することで賃貸人からの明け渡し請求に対抗することができます。したがって,いずれにしても,内縁の妻は大家からの立ち退き請求を拒むことができます。もっとも,相続人がいる場合,相続人が家賃を払わなければ早晩契約解除となり退去を迫られる恐れがありますので,相続人と早期に話し合うことが望ましいでしょう。

「参考文献」
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
安達敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院

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