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相続人の債権者から遺産が差し押さえられた場合(遺産分割と第三者)

相続人の債権者から遺産が差し押さえられた場合(遺産分割と第三者)

Q

父が,不動産一筆と預金を残して亡くなり,相続人は子3人です。遺産分割協議成立までの間,不動産は相続人の共有登記をしていました。分割協議の結果,長男が単独で不動産を取得すると決まり,その旨の登記手続きを申請したところ,次男の債権者である金融業者が次男への貸金債権を根拠に,次男の持分3分の1を差し押さえる登記をしていたのです。この差し押さえは有効ですか。

A

1 遺産分割と登記
 相続人が複数ある場合,遺産分割成立までの間,遺産に属する不動産は共同相続人間の共有となり(民法898条,899条),遺産分割手続きにより不動産の最終的な所有権帰属が決定されます。遺産分割の効力は相続開始時に遡って生じます(この効果を「遡及効」といいます。民法909条本文,882条)。よって,不動産の取得者は被相続人から直接に不動産を取得したことになる一方で,不動産を取得しなかった相続人は相続開始時点からその不動産に対して無権利者ということになります。
とすると,問いのケースにおける次男は遺産分割協議の成立で長男が不動産を取得したことにより,当初から無権利だったと扱われる結果,次男の債権者が行った差し押さえは無効とも思われます。
 しかしながら,民法909条は但書において遺産分割による遡及効に対し「第三者の権利を害することができない」という制限を付しています。ここにいう「第三者」とは遺産分割協議成立前に利害関係に入った者を指し,遺産分割協議成立前に相続不動産に差し押さえを行った相続人の債権者はここに含まれます。
もっとも,民法909条但書の第三者として保護されるには登記を備えていることが必要ですので(権利保護資格要件としての登記),第三者が登記を備える前であれば,不動産を取得した相続人は第三者に対抗できます。
 なお,遺産分割成立後に登場した第三者についても,判例は「遺産分割は,第三者との関係では相続人がいったん取得した権利につき分割後に新たな変更を生じるものと実質的には異ならない」ことを理由に,一般の物権変動同様に民法177条を適用し,登記を先に備えた方が優先すると結論付けています(昭和46・1・26民集25・1・90)。

2 ご質問について
 上記のとおり,遺産分割前に相続不動産の相続人である次男の持分に差し押さえを行った次男の債権者は,民法909条但書にいう第三者にあたり,登記を備えていれば,その後の遺産分割協議で不動産を取得した長男に対抗できます。本件で,差し押さえ債権者は登記を備えているため差し押さえは有効であり,長男としては,債権者と交渉して差し押さえを解除してもらうか,持分の競売手続において買い受けるなどの方法をとるしかありません。この結論は,差し押さえが遺産分割成立後になされた場合でも同じです。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院

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