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海外にある遺産の手続き

海外にある遺産の手続き

Q

父が死亡し,私と弟の二人が相続人となりました。父は日本人ですが,長く海外に赴任しており,遺産の中に,アメリカ滞在中に作ったアメリカの銀行支店の預金があります。葬儀等でかなりの費用がかかったため,早急に預金を引き出したいですが,海外の銀行支店の預金も,日本と同様の相続の手続きによって払い戻しできるのでしょうか。

A

1 相続人の国籍と適用される法令
相続に関する問題が,複数の国に関係する場合,どの国の法令に従って処理するかが問題となります。この点に関し,法の適用に関する通則法という法律で,「相続に関しては被相続人の本国法による」と定められています(通則法36条)。
したがって,被相続人が日本国籍を有する限り相続人の戸籍の所在にかかわらず,日本の法律にしたがって相続手続きを行うことになります。

2 遺産が海外にある場合
 もっとも,相続関係の法的手続きの準拠法が日本法だとしても,預金払い戻しや不動産名義の移転といった具体的な手続きにおいては,それら遺産の所在する国・地域の取り扱いに従わなければ,現実に払い戻し等の手続きをすることはできません。そして,こうした手続きは,国・地域によって異なるのが通常であり,個別の検討が必要です。

3 包括承継主義と管理清算主義
日本は,相続に関し「包括承継主義」を採用しており,相続人の死亡によってその全財産は直ちに相続人に承継されると考えます。
これに対して,アメリカやイギリスなどいわゆる英米法系といわれる国々は「管理清算主義」を採用しており,相続人の死亡により,その遺産はいったん清算管理人の管理下に入り,清算手続きを経た後に相続人に分配されることになります。そして,アメリカは州法によって具体的な手続きを定めているため遺産の所在する州ごとに取り扱いが異なります。したがって,まずは相続人の預金の所在地における取り扱いについて事前に充分調べた上で,求められる手続きを踏んでいく必要があります。

4 ご質問について
 ご質問の場合,被相続人である父親の国籍地である日本の法令に従って遺産分割手続きを行うことになります。
 もっとも,海外に所在する遺産を相続するためには,その国や地域の手続きに従う必要があり,父の預金は管理清算主義を採用するアメリカにあるため,日本と異なり,相続人による払い戻し請求がすぐには認められない可能性が十分あります。
まずは,現地の相続手続きに精通した専門家に相談し,求められる資料を作成するなどして手続きを進めることになります。
いずれにしても,日本で相続預金の払い戻し請求をする場合に比べて時間がかかることは覚悟する必要があるでしょう。

「参考文献」
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
東京弁護士会相続・遺言研究部『Q&A相続・遺言110番―トラブルを起こさない相続・遺言の知識―第三版』民事法研究会
高岡信男『相続・遺言の法律相談』学陽書房

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