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相続放棄と熟慮期間の伸長

相続放棄と熟慮期間の伸長

Q

田舎で町工場を営む父が死亡し,相続人は私一人です。葬式のあと,親戚から,父には相当の借金があるのではないかと聞きましたが,長らく父と疎遠だった私は,父の個人財産も事業内容もまったく把握できていません。急いで父の財産状況を調べていますが,私も多忙で,自宅も遠いため,調査は思うように進みません。相続放棄には期間制限があるようですが,とりあえず相続放棄の手続きをしておき,あとから撤回することはできますか。撤回できない場合はどうしたらよいですか。

A

1 相続放棄とは
 被相続人が死亡すると,相続には自分の意思とは関係なく,被相続人の財産を包括的に承継する地位に立たされます。しかし,被相続人が多額の負債を抱えている場合もありますし,そうでなくとも,様々な事情により財産の相続を望まない場合もあります。
こうした心情に配慮し,民法は,被相続人の財産を相続するかどうかにつき,相続人に選択の余地を認め,一切の財産を承継しないという判断を許しています。これが,相続放棄の制度です(民法915条)。
相続放棄により,相続人は最初から相続人ではなかったものとみなされ(民法939条),一度行った相続放棄は撤回できません(919条1項)。このように,相続放棄の効果は絶対的な効力とされているのです。

2 相続放棄と熟慮期間
相続放棄をするかどうかは,相続人にとって重大な決定であり,十分な調査や検討が必要である一方,相続放棄の効果が絶対的であることから,第三者との関係ではできるだけ早く相続放棄するかどうかを決する必要もあります。
そこで,法は,相続放棄するか否かの決断は,「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3ヶ月の間に,行わなければならないと定めました(915条1項)。そして,この期間内に相続放棄または限定承認をしなければ,単純承認したものとみなされ(921条2号),この期間を熟慮期間と呼んでいます。
もっとも,相続財産が多岐に渡る場合や,把握に支障がある場合など,3ヶ月では十分は検討ができない場合もあります。こうした場合,家庭裁判所の許可を得て,熟慮期間の伸長することが可能です(915条1項但書)。

3 ご質問について
 ご質問の場合,被相続人である父に多額の借金がある可能性があるため,相続放棄を検討すべき状況にあります。相続放棄の効果は絶対的で,一度相続放棄をするとその撤回は認められませんから,とりあえずやっておこうという意味での相続放棄は決してなすべきはありません。
ご事情によると,父の財産状況の調査にはまだ時間がかかるようですので,この場合は,家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立て,伸長が認められれば,新たに家庭裁判所が定める期限までに相続放棄するかどうかを決断することになります。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院

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