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遺留分と寄与分はどちらが優先されるのですか

遺留分と寄与分はどちらが優先されるのですか

Q

私の父は先日死去しました。母が既に他界しているため、相続人は、長男である私と私の姉、弟の3名のみです。

父の遺産は、父が住んでいた家と敷地と、畑6筆と田4筆です。総額にすると約4200万円です。父は、畑6筆と田4筆で農業を営んでおりました。

私は長男として父の後を継ぐように両親から言われており、若い頃から家業である農業を父とともに行ってきました。私が必死に頑張ったからこそ、父は畑や田 といった農地を手放すことなく守り続けることができたのです。また、父が体を悪くしてからは、私がずっと父の療養看護をしてきました。

このような事情がありますから、私は父の遺産に対して少なくとも7割の寄与分(=2940万円。4200万円×7/10)を有していると思っています。

姉や弟は、7割もの寄与分を認めてしまうと、自分達が有する遺留分(=各700万円。4200万円×1/3×1/2)よりも、自分達の取得額が低くなって しまう(=各420万円。(4200万円-2940万円)×1/3)ため、7割もの寄与分は認められないと主張しています。

しかし、父の財産に対する私の寄与は7割を下回るものではありませんし、姉や弟は父の為にこれまで何もしてこなかったのですから、このような主張をされるのは、納得がいきません。

私の主張は認められないのでしょうか。

A

(1)寄与分が優先されるか、遺留分が優先されるか
あなたの質問は、寄与分と遺留分のどちらが優先されるかという問題です。
法律上、寄与分と遺留分のどちらが優先されるかについて、規定がありませんので、寄与分が優先されるとする見解、遺留分が優先される見解の両方があります。
さらに、民法上寄与分は「・・・相続財産の額その他一切の事情を考慮」(民法904条の2第2項)して定めるものとされていることから、実際の運用上、遺 留分を有する他の相続人の利益をこの「一切の事情」として考慮し、遺留分を侵害する寄与分の定めは原則として避けるべき、とする運用説があります。
このうち判例・通説として確立した説はありませんが、ここでは運用説に立った裁判例をご紹介いたします。

(2)裁判例
東京高決平3.12.24(判タ794号215頁)は、運用説に立ったうえで、農家の遺産の維持に貢献し、被相続人の療養看護をしてきた相続人の寄与分を7割と評価した審判が他の相続人の遺留分を大きく侵害するとして違法と判断しました。

同決定では、

寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当 然に制限されるものではない。しかし、民法が、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け、これを侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者 及びその承継人に減殺請求権を認めている(民法1031条)一方、寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情 を考慮して定める旨規定していること(民法904条の2第2項)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるに当たっては、他の相続人の遺留分についても考 慮すべきは当然である。確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるに当たって他の相続人の遺留分を考慮しなく てよいということにはならない。むしろ、先に述べたような理由から、寄与分を定めるに当たっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうか についても考慮しなければならないというべきである。

と運用説に立つことを明らかにしました。

その上で、家業である農業を続け、遺産である農地の維持管理に努め、被相続人の療養看護にあたったというだけでは、寄与分を大きく評価するのは相当ではな く、さらに特別の寄与をした等の「特段の事情」がなければ遺留分を侵害するだけの寄与分は認められないと判示しました。

(3)本件の場合
あなたに7割の寄与分(=2940万円。4200万円×7/10)が認められるとすると、お姉さんと弟さんの遺留分を侵害することになります。
そして、前述の平成3年の裁判例に従いますと、家業である農業を続け、遺産である農地の維持管理に努め、お父さんの療養看護にあたっていたというだけで は、寄与分を大きく評価するのは相当ではなく、さらに当該裁判例の言うところの「特段の事情」がなければ、遺留分を侵害するほどの寄与分は認められません。
たとえば、遺産の不動産の名義がお父さん(被相続人)であるものの、実際はあなた(寄与分を主張する相続人)が90パーセント相当出資していたような場合などが考えられます。
以上説明しましたとおり、あなたがお父さんの為に特別な寄与をしたという事情が他にないのであれば、認められる寄与分は、お姉さんや弟さんの遺留分を侵害しない限度となる可能性が高いです。
すなわち、認められる寄与分の上限は、4200万円-2100万円(相続人3名の遺留分合計=700万円×3)=2100万円になります。

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