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遺産の中の不動産を売却した売却代金は遺産分割の対象となるか

遺産の中の不動産を売却した売却代金は遺産分割の対象となるか

Q

亡父の遺産相続の関係で、母、長男、次男及び三男の私の4人の間で遺産分割協議をしています。

遺産の中にはかなり資産価値のある不動産があったのですが、亡父の死亡後、長男Aの紹介で、高く買ってもいいという会社が現れましたので、相続人4人で相談し、長男Aにその売却を任せることにしました。

その結果、当該不動産は無事売却でき、長男Aがその売却代金全額を受領しました。しかし、その後私とそれ以外の相続人3人の間で遺産分割に関する方針が対立し、長男Aはこの不動産売却代金を他の相続人2人には渡したのですが、私にだけは渡そうとしません。

私は長男Aに対して、この売却代金を請求することは出来るのでしょうか。

それとも、遺産分割が終了するまでは売却代金の請求はできないのでしょうか。現状からすると遺産分割が終了するまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

A

最判昭和52・9・19(家裁月報30・2・110)及び最判昭和54・2・22(家裁月報32・1・149)をベースにした設問です。

遺産の一部を共同相続人全員の合意のもとに処分した場合、その売却代金は遺産の代償物として遺産分割の対象となるのか、それとも遺産から逸出して各相続人が個別に取得することになるのか、という問題です。

前者だとすると、あなたは遺産分割が終了するまで長男Aに対して不動産売却代金の支払を求めることは出来ませんし、後者だとすると、あなたは長男Aに対し、民法646条の定める受任者の受取物引渡義務の履行として売却代金の支払を求めることが出来ることになります。

この点について最判昭和52・9・19(家裁月報30・2・110)は「共同相続人が全員の合意によって遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に 売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができるものと 解すべき」としています。さらに最判昭和54・2・22(家裁月報32・1・149)は、この判例と同種の事案において「共有持分権を有する共同相続人全 員によって他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産 分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相統人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである」 としています。

本件においては、昭和54年の最高裁が言うような「特別の事情」も無いようですから、不動産の売却代金は相続財産には加えられず、あなたは長男Aに対して不動産売却代金のうち自己の法定相続分に相当する部分について請求をすることができる、ということになります。

なお、ご相談のケースでは、遺産の処分が共同相続人全員の合意によってなされたものでしたが、遺産を共同相続人のうち一人が無断で売却し、その結果他の相続人が損害を被った場合はどうでしょうか。

この点、遺産分割前に共同相続人の一人が他の相続人に無断で相続財産中の株式を売却し、買主がこれを善意取得した場合、他の相続人は、遺産分割手続を経る ことなしに、その相続分に応じて株式を売却した相続人に対する不法行為による損害賠償請求権を取得する、とした裁判例があります(福岡高裁那覇支判平成 13・4・26判時1764・76)。

この裁判例は、相続人の1人が勝手に遺産を売却した場合であっても、上記「共同相続人全員の合意がある場合」と同様、第三者への売却によって当該財産が相続財産から逸出したことには変わりはないとしてそのような結論を導いています。

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