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納税用に便宜的に作成した遺産分割協議書の効力が問題となった事例

納税用に便宜的に作成した遺産分割協議書の効力が問題となった事例

父が亡くなりました。母は父よりも先に亡くなっていましたので、父の相続人は私と兄だけでした。49日などが落ち着いた後、兄と父の遺産をどのように分けるかについて、何度か話し合いをしました。兄は特に理由なく、ほぼ全ての遺産を兄一人が相続をし、私には少しだけ分けるという提案をしてきました。私はそれでは納得がいかなかったので、兄の提案には応じられないと答えてきました。 そうこうしているうちに、相続税の申告期限が迫ってきていました。兄は、相続税の申告期限内に相続しないと、後に莫大な相続税を納めないといけなくなるので、とにかく相続税の申告のためだけの遺産分割協議書に署名捺印をしてほしいと私に必死に頼んできました。 私も、相続税のことは気になりましたので、ひとまず、相続税の申告用として、兄の用意した遺産分割協議書(内容はほとんどを兄が取得するという不公平なものです)に署名捺印しました。ただし、これで遺産分割は終わったわけではないということをはっきりさせておくために、兄に「遺産分割の話し合いは引き続き継続する」という内容の念書を書いて貰いました。 しかし、その後、兄は、私が署名捺印した遺産分割協議書の内容のとおりに遺産分割は成立したと言って、遺産分割の話し合いに全く応じなくなりました。 私はどうしたらいいでしょうか。相続税の申告のためだけだったとはいえ、協議書に署名と捺印をしてしまったら、兄にもう何も言えないのでしょうか。

事件の進行

 今回のケースは、遺産分割協議書が偽造というケースではなく、一応こちらが協議書に署名捺印をしていることは間違いないというものでした。
 このような場合、何らかの理由で遺産分割が無効である(たとえば、相続税申告のために便宜的に作成した遺産分割協議書であり真の意思に基づいたものではないから無効である、など)ことを主張・立証しなければなりません。
 このケースでは、まず兄に対して、遺産分割協議書に署名と捺印をしたのは、相続税申告のためだけであり、引き続き遺産分割協議に応じるように交渉しました。
 しかし、兄は、遺産分割は既に成立しているとして、全く協議に応じなかったため、兄に対して、遺産分割が虚偽表示(民法94条2項)等により無効であるとの理由で遺産分割無効確認訴訟を提起しました。
 裁判では、当方の主張立証が功を奏し、判決間際に、当方が署名捺印をした遺産分割協議書の内容での遺産分割は無効との前提で和解が進められ、兄と和解(遺産分割のやり直し)をして終了しました。

弁護士からのコメント

 まず、一般論として、遺産分割無効確認訴訟で勝訴するのは、非常に難しいことが多いです
 遺産分割協議書に署名と捺印があれば、その内容での遺産分割は有効に成立したという推定が働くために、無効を主張する側が、無効原因[騙された(詐欺)、勘違いしていた(錯誤)、強迫された]の存在を主張、立証しなければならないからです。
 そして、その立証のハードルは通常非常に高いのです。
 もっとも、このケースでは、多くの証拠が残されていましたので、依頼者と相談の上、諦めずに裁判を起こすことを選択しました。
 依頼者が遺産分割協議書に署名捺印するまでの間に、依頼者と相手方がやりとりをしていた交渉経過のわかる書面が複数残されていたため、「依頼者が何の理由もなく、相手方提示の遺産分割協議書の内容に納得するはずがない。署名捺印をしたのは相続税の申告のためだけである。」ということが立証できました。また、相手方が遺産分割の話し合いを継続する旨の一筆を残していたことも大きな証拠でした。
 交渉経過について逐一依頼者が書面で残していたこと、書面にはない部分について、お父様が亡くなってから協議書に署名捺印するまでの時系列を依頼者から事細かに聞き取りを行って補ったこと、これらの事実経過と証拠関係をきっちりとまとめて裁判所に提出したこと、裁判での尋問ではこれらを踏まえて入念に準備して臨んだことが勝因となりました。

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