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被相続人の借金を一部返済した場合,相続放棄は出来なくなってしまうのですか 

被相続人の借金を一部返済した場合,相続放棄は出来なくなってしまうのですか 

Q

父が多額の借金を残して亡くなりました。相続人は息子の私一人です。葬式の日,金融業者が「弁済の期限はとうに過ぎている,借金を踏み倒す気か」などと家の前で騒いだため,私は,頼むから今日のところはこれで勘弁してくれと言って,自分の財布から3万円を取り出して渡しました。四十九日も済み,相続放棄の手続きを進めていたところ,例の金融業者から,父が亡くなった後に父の借金の一部を弁済したので,もう相続放棄はできない,すぐに全額を返せと言ってきました。この場合,私は相続放棄できないのですか。

A

1 相続放棄
相続によって相続人に承継される財産(遺産)には,プラスの財産だけでなく借金などのマイナス財産も含まれるため,相続人が遺産の承継を拒みたいと 思う場合があります。また,借金は無くとも,心情的な理由や他の相続人との関係を理由として,相続人としての地位を辞したいと考える場合もあります。こう した場合,相続人は,「相続放棄」の手続きによって,自分の望まない相続の承継を拒むことができます。
相続放棄を行うには,自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に相続を放棄する旨を申述することが必要です(民法915条1項)。
相続放棄により,放棄者は当初から相続人でなかったことになり(民法939条),その相続に関し,相続人としての一切の権利義務を喪失します。

2 法定単純承認
もっとも,相続放棄の手続きをする前に,「相続財産の処分行為」を行った場合には,その後に相続放棄をすることはできず,被相続人の一切の財産を承継しなければなりません(民法921条1号「法定単純承認」)。
「相続財産の処分行為」とは,たとえば,遺産である不動産や動産を売却・贈与する等の法律行為のほか,破損する等の事実行為を指します。債権(貸金を回収する権利等)については,その取り立て行為や弁済を受領する行為が該当します。
一方,相続財産の現状を維持する保存行為(不動産の修繕・債権の時効中断行為等)は含まれません(民法921条1号但書)。

3 ご質問について
では,相続人である息子が,亡くなった父の借金の1部を自分の持ち金から弁済した行為は,上記の「相続財産の処分行為」にあたるのでしょうか。
この点が争われた,平成10年の福岡高裁決定は,期限の到来した被相続人の債務につき,相続人が自己資金で弁済する行為は,民法921条1号の「相続財産の処分行為」には該当しないと判示しました(福岡高決宮崎支部平成10・12・22)。
裁判所はその理由を述べていませんが,債務は,支払期限を過ぎると遅延損害金(遅延利息)が発生し,どんどん借金が膨らんでいく点に着目すると,期 限を過ぎた債務の弁済は,この遅延利息の発生を防ぐ点で保存行為にすぎないということができますし,相続人自身の財産から債務を弁済しても,他の遺産に手 を付けたわけではないため,他の相続債権者を害する恐れがないことからも,妥当な結論といえるでしょう。
ご質問のケースでも,父の借金は支払期限が過ぎていますし,息子は,自分の持ち金で弁済を行っています。この場合,息子の弁済行為は「相続財産の処分行為」にはあたりませんので,速やかに家庭裁判所で相続放棄の手続きをとるべきでしょう。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
高岡信男『相続・遺言の法律相談』学陽書房
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院

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