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遺産分割後に死後認知された相続人が現れた場合

遺産分割後に死後認知された相続人が現れた場合

Q

父が、自宅不動産と、預金、株式を残して亡くなり、子ども3人で遺産分割協議を済ませ、不動産は長男が、預金は次男が、三男の私は株式を取得しました。その後、父の愛人だったという女性から連絡があり、父と自分との間にできた娘について、父の死後に裁判所で認知の判決が下りた、したがって、娘は父の相続人だから遺産を分けてほしいといってきました。私たち兄弟には寝耳に水ですが、この場合、遺産分割をやり直す必要がありますか。

A

1 一部の相続人を除外して行われた遺産分割協議の効力
 遺産分割協議は,相続人全員によることが必要とされており,相続人の一部を除外して行われた遺産分割は、それが協議・調停・審判のいずれであっても、原則として無効と解されています。
したがって,遺産分割協議開始に先立ち,被相続人の戸籍等をもとに相続人が誰であるかを十分に注意して確定する必要があります。

2 遺産分割後に新たな相続人が現れるケース
 もっとも、十分な注意をもってしても、遺産分割時には相続人でなかった者が、その後の事情により相続人の地位を取得する場合があります。たとえば、①戸籍上離婚した配偶者について、離婚の無効確認裁判が確定した場合、②相続開始時に胎児だった者が出生した場合、③相続放棄が無効と判断された場合、④父子関係または母子関係の存在が確認された場合、⑤死後認知の場合(民法910条)などが該当します。このうち、⑤死後認知の場合については、法律上の規定が存在します。

3 死後認知と民法910条
 認知とは、法律上の父子関係を発生させる行為であり、出生時に遡って効力を生じます(民法779条)。認知の訴えは、父が死亡した後であっても、死亡日から3年以内であれば提起できます(民法787条「死後認知」)。もっとも、認知が遺産分割協議成立後になされた場合、遺産分割協議を無効にすることはできず、認知された子は、他の共同相続人に対して、自分の相続分に相当する価額を支払うように求めるものと定められています(民法910条)。
 なお、民法910条は、遺産分割跡に認知手続きを経て相続人となった場合の規定であり、認知が遺産分割前になされていた場合には適用できません。この場合は、単に相続人の一部を除外して行われた遺産分割として無効になると解されています(大阪高決昭和41年7月29日家月19・2・73)。

4 死後認知以外の場合
 では、死後認知以外のケース(上記①~④などの場合)について、死後認知に関する民法910条の規定を類推適用して同様の解決を図ることは許されるでしょうか。
 この点について、統一的な見解は未だに確立してはいませんが、遺産分割後に母子関係存在確認訴訟が確定したために、母子関係の存在が認められた事案(上記④)において、最高裁は同条の類推適用を明確に否定しました(最判昭和54年3月23日判時923・70)。
この判例を前提とすれば、死後認知の場合を除き、遺産分割後に新たに相続人が判明した場合、遺産分割協議は無効になり、判明した相続人を交えて、改めて遺産分割をやり直すことになります。

5 ご質問について
 ご質問で、遺産分割後に現れた相続人は、死後認知によって相続人となった父の娘ですから、民法910条の適用を受けます。この場合、遺産分割協議は無効にならず、父の娘は他の相続人(父の息子3名)に対し、自己の相続分相当の支払いを求めることになるでしょう。

東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
高橋信男『相続・遺言の法律相談』学陽書房

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