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遺言執行者を選任すべき場合

遺言執行者を選任すべき場合

Q

母が亡くなり,一人娘の私と母の再婚相手の2人が相続人です。遺産は母名義のマンションだけです。母は3年前に再婚しましたが相手男性は結婚直後から母に暴力をふるい,2年前に母が病気になるとマンションを出て行き,私が一人で母を介護し最期を看取りました。ところが,母の葬儀も済まないうちに再婚相手はマンションに戻り,ここは自分のものだと言って居座っています。葬式後,母の引き出しから「夫(再婚相手)を廃除して遺産をすべて一人娘に譲る」という内容の遺言書が出てきました。遺言通りに再婚相手を追い出すにはどうすればいいでしょうか。

A

1 遺言の執行方法
 遺言事項は次の三つに分類されます。一つ目は,遺言の効力発生(遺言者の死亡)と同時にその内容が実現され特段の執行行為を要しないもの(未成年後見人の指定:民法839条,相続分の指定:民法902条等),二つ目は,遺言内容を実現するために執行行為を別途要するが相続人による執行が可能なもの(信託の設定:信託法2条,3条,遺贈:民法964条等),三つ目は,執行を要するうえ,その執行が遺言執行者によってのみ可能なもの(遺言による認知:民法781条2項,遺言による相続人の廃除:民法893条等)です。
このうち,三つ目の遺言事項が遺言に含まれる場合,相続人のみで遺言を実現することができないため必ず遺言執行者を選任しなければなりません。なお,遺言執行者が選任されると,相続人は遺言の執行権を失いますので,相続人による執行が可能な行為についても遺言執行者のみが行うことになるのです。

2 遺言執行者の選任
 遺言執行者は遺言で指定できます(民法1006条1項前段)。遺言執行者に指定された者は就任を拒否できますが,就任を承諾した後は直ちに任務を遂行しなければなりません(民法1007条)。遺言者執行者の指定がなければ,家庭裁判所が利害関係人(相続人,受遺者等)の請求で遺言執行者を選任します(民法1010条)。選任請求者による候補者の推薦は可能ですが,裁判所は推薦に拘束されず,裁量で執行者を選任する権限があります。

3 遺言執行者の権利と義務
 遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条)。遺言内容が相続人の廃除である場合,遺言執行者は家庭裁判所に推定相続人廃除の審判を申し立て,廃除の審判が下ればその旨を届け出ます(戸籍法97条)。遺贈等財産処分に関する遺言では,財産目録を作成し(民法1011条),遺言内容に従った財産の引渡しや移転登記手続きをします。相続財産の不法占有者や登記名義人に対しては遺言執行に協力を求め,相手がこれに応じない場合には引渡・明渡請求や抹消登記手続き請求などの訴訟を提起し遂行することになります。

4 ご質問について
 母の遺言を実現するにあたっては,その遺言事項に相続人(再婚相手)の廃除という遺言執行者による執行を要する行為が含まれるため,遺言執行者の選任が不可欠です。遺言に遺言執行者が指定されていればその者に遺言執行者への就任を打診し,承諾が得られればその遺言執行者が遺言内容の実現のための一切の行為を行います。遺言執行者に指定された者が就任を拒否した場合や,遺言執行者の指定がない場合は,相続人である娘が家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求できます。選任された遺言執行者は遺言内容に沿って,再婚相手の廃除の審判を申し立てます。審判が下ると,再婚相手は母の相続人の地位を失いマンションの居住権限も無くなります。遺言執行者が再婚相手に明け渡しを求めても応じない場合には,遺言執行者が同人を被告としてマンションの明け渡し訴訟を行うことになります。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
NPO法人遺言・相続リーガルネットワーク『実務解説遺言執行』日本加除出版

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