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遺言の内容が不明確で解釈に争いがある場合

遺言の内容が不明確で解釈に争いがある場合

Q

父が死亡し,三姉妹が相続人です。父は長女と仲が悪く,自分の財産は,次女と三女である私に譲りたいと言っていました。その後,父は「A銀行B支店の普通預金5千万円のうち,3千万円を次女に,2千万円を三女に相続させる」という内容の遺言を残して亡くなりましたが,X銀行を調べてみると,普通預金の残高は200万円ほどしかなく,代わりに同支店の定期預金が5千万円ありました。長女は,遺言に記載された5千万円の普通預金など存在しないのだから,この遺言は無効だ,法定相続割合(3分の1ずつ)で全預金を分けるべきだというのですが,納得いきません。このような場合,遺言は無効になるのでしょうか。

A

1 不明確な遺言内容
 遺言書に書かれた内容が不明確であることは実際によくあります。そして,その内容は相続人の利害に大きく関わるものですから,その解釈をめぐって共同相続人間で大きな紛争になることも珍しくありません。本来,残された相続人間の紛争を防止するために機能するはずの遺言が,かえってその紛争を大きくさせることになっては本末転倒ともいえます。遺言は,その内容に不明確な点を残さないように十分に吟味して作成すべきです。

2 遺言の解釈
 もっとも,遺言とは,遺言者の自分の死後の財産処分についての最後の意思を表したものですから,できるだけ尊重されるべきものです。したがって,遺言の内容が不明確であるからといって,直ちに遺言を無効とすべきではありません。この点について,最高裁は次のように述べて,遺言内容を合理的に解釈するべきと述べています。
「遺言の解釈に当たっては,遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり,そのためには,遺言書の文言を前提にしながらも,遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許される。」(最判平成5年1月19日家月45・5・50)

3 具体的な解釈の一例
 実際に不明確な内容の遺言の解釈が争われた事案で,ご質問の事情に類似したケースを取り上げます。
【東京地判平成10年9月29日金法1564・78】
・事案概要・
遺言者(母)は,X銀行Y支店の普通預金5400万円から,子5名のうち,従来から関係の悪かった長女を除く4名にそれぞれ1200万円を相続させ,二女の夫に300万円を遺贈し,さらに次男Dを祭祀承継者に指定するとともに上記普通預金からさらに300万円を相続させるという内容の公正証書遺言を残したが,実際には,同銀行同支店の普通預金残高は219万円しかなく,同支店には5千万円と500万円の定期預金が存在した。長女は,遺言は無効だと主張し,法定相続分の預金払い戻しを求めたが,他の共同相続人は遺言を有効と主張し争いになった。
・裁判所の判断・
 「遺言者が長女に不信を抱き,長女には相続による利益を取得させないことを目的として本件遺言をしたこと,5500万円の2口の定期預金が実質的に遺言者の全財産であったこと,遺言者が預金の管理を他の推定相続人に事実上委ねており,それが普通預金か,定期預金かには無関心であったこと等の事情のもとでは,本件遺言における「普通預金」の文言を絶対的なものとみることは遺言者の真意に適うものではなく,定期預金であるか否かを問わず,X銀行Y支店に遺言者の預金として存在した2口の定期預金のうち5400万円を遺言の内容に従って分配する趣旨の遺言とみるのが遺言者の真意に適合する。」として,長女の主張を排斥し,遺言を有効とした。
 このように,遺言内容と,遺言者が遺言を作成した経緯や遺言者の置かれた具体的事情をともに考慮することで,できる限り遺言者の真意に沿った解釈を施し,遺言を有効とするのが裁判所の態度と言えます。

3 ご質問について
 ご質問では,上記判例と同様に,遺産の内容が普通預金か定期預金かという相違が問題となっています。遺言者の意思を汲み取ると,長女と遺言者は昔から不仲であり,長女に遺産を渡したくないという思いでこの遺言を作成したものと推認されます。また,普通預金と定期預金の違いはあれども,いずれも同銀行同支店の口座であることを鑑みると,上記判例のように,遺言は有効と判断される可能性があると思われます。
 もっとも,その他の事情も検討したうえで総合的な判断が必要ですので,弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。

「参考文献」
遠藤常二郎『遺言実務入門』三協法規
高岡信男『相続・遺言の法律相談』学陽書房
NPO法人遺言・相続リーガルネットワーク『実務解説遺言執行』日本加除出版

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