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遺産の範囲に含まれるかについて争いがある場合

遺産の範囲に含まれるかについて争いがある場合

Q

父が亡くなり遺産分割協議中ですが、父名義の実家不動産について争いがあります。父は生前、相続対策としてこの不動産の名義だけを長男に移していたのですが、今になって長男が,父が生前に自分に贈与したので遺産ではないと言い出して話し合いが進みません。遺産分割はどのように進めればいいでしょうか。

A

1 遺産の範囲特定の必要性
遺産分割協議を円滑に進めるために,どの財産が被相続人の遺産に該当するかという「遺産の範囲」を明確に特定することが不可欠な前提事項です。共同相続人間にこうした前提事項に関する争いがある場合の解決方法としては,①調停や審判等の家庭裁判所の遺産分割手続きにおいて前提問題についても同時に解決する方法と,②前提問題に関する争いを家庭裁判所の調停・審判から切り離し,民事訴訟を利用して先に解決する方法とがあります。

2 家庭裁判所における調停・審判による解決
(1)調停による解決
 家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て,調停における話し合いの中で,遺産の範囲に関する合意を形成する方法です。この遺産内容に関する合意を最終的な調停事項の内容として明記しておけば,調停には確定判決と同じ効力があるため,後になって遺産の帰属性(範囲)が争われることはありません(大阪高判昭和54・1・23判時934・63)。なお,このように裁判所の判断事項に関し,後の裁判で争えなくなる効力を既判力といいます。
(2)審判による解決
 もっとも,遺産の範囲に関する争いは深刻化することが多く,調停での合意形成が進まない場合も多くみられます。
調停がまとまらずに不調に終わった場合,事件は当然に審判に移行し(家事審判法26条1項),家庭裁判所は,遺産の帰属性に関する前提問題を判断したうえで,分割の審判を行うことができます。
 もっとも,調停の場合と異なり,遺産分割審判における遺産の帰属に関する判断は,あくまで遺産分割の前提問題にすぎず,既判力が生じません(最決昭和41・3・2民集20・3・360)。したがって,共同相続人は審判確定の後であっても,別途訴訟を提起し,遺産の範囲に関し再び争うことができるのです。こうした紛争再燃の余地が残る点で,家庭裁判所の審判は終局的な解決方法とはいえません。

3 遺産確認の訴え
そこで,共同相続人間で遺産の帰属性に関する争いが大きく,調停における合意形成の困難さが予想される場合には,先に「遺産確認の訴え」の提起を検討すべきでしょう。
遺産確認の訴えとは「特定の財産が被相続人の遺産に属すること」の確認を求める訴えをいいます。この訴えによって遺産の帰属性が判断されれば,判決の既判力によって遺産の範囲に関する後々の紛争は封じられるため,遺産分割の前提問題に決着をつけることができます。
なお,遺産確認の訴えは,共同相続人間の紛争を同一的に解決するものであるため,共同相続人の全員が原告または被告として訴訟に関与する必要があります(最判平成元・3・28民集43・3・167)。

4 結論
 ご質問のケースでは,実家の不動産が被相続人の遺産に属するかという遺産分割の前提事項に関して共同相続人間で争いがあります。家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて調停内で話し合うこともできますが,長男の態度からすると調停で合意を形成するのは困難かと思われます。この現状を踏まえると,先に他の共同相続人全員を被告として遺産確認の訴えを提起し,実家不動産が被相続人の遺産に属するか否かという遺産の帰属性の問題を明確にしてから,協議または調停によって遺産分割手続きを進めるとよいでしょう。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
東京弁護士会相続・遺言研究部編『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院

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