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共同相続人の一人が遺産である建物を単独で占有している場合

共同相続人の一人が遺産である建物を単独で占有している場合

Q

私は3人姉妹の長女で,母名義の実家家屋に長年母と同居し母を介護してきました。このたび母が亡くなり,姉妹で相続について相談したところ,次女と三女は,母が亡くなったのだから母名義の家に住む権利はない,すぐに出て行け,どうしても住みたいのなら家賃を払えと言い出しました。なお,遺産分割協議はまったく進んでいません。
1 私は,実家家屋をすぐに出ていかなくてはなりませんか。
2 仮にこのまま住めるとしても家賃を払う必要がありますか。

A

1 遺産の管理
被相続人が死亡した場合,相続人は遺産分割が終了するまでの間,遺産を管理しなければならず,その管理の程度については,自己の財産に対するものと同一程度の注意をもって行うものとされています。
そして,相続人が複数ある場合は,相続財産は共同相続人間の共有に属しますので(民法898条),相続財産の性質に反しない限り民法上の共有物の管理に関する規定が適用されます(民法249条以下)。管理の方法は民法上,以下の3類型に分類されています。
(1)保存行為
遺産の現状を維持する行為(具体的には家屋の修繕,土地の保存登記,腐敗しやすい物の換価等)を保存行為と呼び,共同相続人が単独で行うことができます(民法252条但書)。
(2)管理行為
遺産を利用・改良する行為(具体的には家屋の賃貸,抵当権の抹消等)を管理行為と呼び,各共同相続人の相続持ち分の割合に従って過半数で決せられます(民法252条本文)。なお,相続財産である不動産の使用貸借契約を解除する行為は管理行為に該当します。
(3)変更行為
共有物に変更を加える行為(具体的には不動産の売却,担保権の設定等)は変更行為と称され,共同相続人全員の同意が必要とされています(民法251条)。

2 共同相続人の一人による相続財産不動産の占有の可否
 ご質問のケースでは母の生前に,長女が母名義の実家建物に無償で居住していた点から,母と長女との間に実家建物を目的物とする使用貸借契約が成立していたと解されます(民法593条)。そして,相続財産たる不動産について使用貸借契約を解除することは管理行為に該当するところ,合わせて相続分の過半数を有する次女と三女(多数持分権者)が求める家屋の明渡し請求を,少数持分権者である長女は拒めるか否かが問題となります。
 この点に関し,最高裁は,共有者の一人は自己の持ち分によって共有物を使用収益する権限を有していること(民法249条)を根拠に,多数持分権者は不動産の占有者(少数持分権者)に対し,明渡しを求める理由を主張立証しない限り,当然に明渡しを請求できるものではないと判示しました(最判昭和41・5・19民集20・5・947)。「明渡しを求める理由の内容」ははっきりしませんが,少数持分権者が相続開始以前と同様の占有を継続する限り,遺産分割協議が終了するまでの期間,当該不動産を占有できると解されています。

3 占有者の賃料支払い義務
 家屋を明け渡す必要がないとしても,共有物を単独で占有する以上,この共同相続人が自己の持ち分を超えて相続財産を使用収益をしていることは明らかです。とすると,占有者は自己の持ち分を超えて不当な利得を得たものとして,他の相続人に対し賃料相当額を支払う必要はないのでしょうか。
 この点に関し,上記最高裁判例は概ね次のように判示し,相続開始時から遺産分割終了までの間の占有者の賃料支払義務を明確に否定しました。
 「被相続人死亡後,遺産分割で建物の所有関係が確定するまでの間は,引き続き同居の相続人に建物を無償で使用させる旨の合意があったものと推認し,被相続人死亡後は,その他の相続人を貸主,同居の相続人を借主とする使用貸借契約が存在することになるから,不当利得の問題は生じない。」

5 ご質問について
(1)問1に対する回答
 ご質問者は,過半数相続持分を有する次女・三女から実家家屋の明渡しを求められても,被相続人が亡くなるまでの期間と同様の占有態様を維持する限り,遺産分割終了までは明渡し請求に応じる必要はありません。
(2)問2に対する回答
 質問の事情からすると,ご質問者と被相続人(母)との間には,被相続人死亡時から遺産分割終了時までの間,引き続きご質問者を実家家屋に無償で住まわせる旨の合意があったと推認されます。したがって,相続開始時から遺産分割終了までの間,ご質問者はこの合意の存在を根拠として実家家屋を無償で使用収益できます。したがって,この期間は,他の相続人に対し賃料を支払う必要はありません。
 なお,遺産分割協議が終了し不動産の所有者が確定すると,その所有者からの明渡し請求を拒むことはできず,また,明渡しまでの期間の賃料相当額を請求されればこれを支払う必要も生じますのでご注意ください。

「参考文献」
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
高岡信男『相続・遺言の法律相談』学陽書房
東京弁護士会相続・遺言研究部編『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
東京弁護士会相続・遺言研究部編『Q&A相続・遺言110番第三版』民事法研究会

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