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保証債務の相続②根保証債務の相続

保証債務の相続②根保証債務の相続

Q

父は,輸入業を手広く営む友人の保証人となっていました。保証内容は,友人が取引先に支払う毎月の代金債務を限度なく保証するというものです。先日,父が急死し,息子の私が父の唯一の相続人となりました。その後,父の友人は破産し,友人の取引先から父に対し150万円の支払請求がきました。内訳は,父の生前に発生した未払代金100万円,父の死亡後に発生した未払代金50万円です。相続人の私に支払い義務がありますか。

A

1 保証債務と包括相続
保証とは,本来の債務者(主債務者)がその債務を弁済しない場合に,債務者に代わって債務を弁済する義務を負うことをいいます(民法446 条)。したがって,主債務者がその債務を弁済せず,債権者が保証人に支払いを求めた場合,保証人は主債務者に代わって債務を弁済しなければなりません。また,相続とは,被相続人に属した一切の財産上の権利義務を承継するものですから(民法896条),保証債務も相続人に承継されるのが原則です。

2 保証債務の性質
 もっとも,保証債務には様々な類型があり,すべてについて相続による承継を認めると被相続人にとって酷な結果になる場合があります。保証の類型としては,①単純な保証債務,②根保証債務,③身元保証の4つがありますが,判例は,保証の類型によって取り扱いを分けています。ここでは,②根保証債務についてご説明します。①単純な金銭保証債務については1.014,③身元保証については1.016をご覧ください。

2 根保証債務
根保証(信用保証)とは,一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証債務であり,たとえば,継続的な売買契約によって生じる代金債務の保証や,金融機関に対する反復・継続的な借入れを保証する場合などがあります。
 根保証は,主債務者と保証人間の人的信用関係を基礎とするものである一方,責任の限度額(極度額)や期間の定めがない場合に保証人の責任の範囲が広範になるというリスクがあります。そこで,最高裁は,継続して商品を売り渡す取引についての保証人の責務が問題となった事案につき,「継続的取引について将来負担することあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間について定めのない連帯保証契約においては〈中略〉保証人たる地位は,特段の事由のないかぎり,当事者はその人と終始するものであって,連帯保証人の死亡後生じた主債務については,その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではないと解するのを相当とする。」と判示しました。
判例の立場によれば,責任の限度額及び期間の定めのいずれもない根保証については,①「被相続人(保証人)の死亡前に発生した保証債務」は相続人に承継されますが,②「被相続人の死亡後に発生した保証債務」は,相続人に承継されません。
 なお,近年,保証制度に関する民法の改正があり(平成17年4月1日施行),融資に関する個人の根保証契約について相続人は保証人の死亡後に行われた融資(借入れ)について責任を負わないと規定され,この点に関する立法的な解決がなされました(民法465条の4)。もっとも,ご質問のケース及び前記判例の事案のように,継続的売買契約に基づく代金債務を根保証するような場合は,融資に関する個人の根保証契約にあたらず,改正法は適用されません。この場合は,上記判例の規範で判断されますのでご注意ください。

3 ご質問について
 ご質問の事情を見ると,ご質問者のお父様が締結していた保証契約は,根保証契約であり,かつ,融資に関する個人保証以外のものに該当します。とすると,判例の考え方によれば,お父様の生前に発生した100万円の代金債務は相続人に承継されますのでご質問者に支払い義務があります。他方,お父様の死亡後に発生した代金債務50万円は相続性が否定されるため支払い義務はありません。

「参考文献」
田中章介・田中将『相続と相続税の実例相談200選』清文社
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割の実務』日本加除出版
安達敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版

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