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遺留分減殺請求と財産処分

遺留分減殺請求と財産処分

Q

父は遺言で唯一の財産である田舎の土地(1千万相当)を兄に相続させるという内容の公正証書遺言を残して亡くなりました。相続人は兄と弟の私の二人です。私は兄に遺留分減殺請求をする予定ですが,知人から,兄は既に土地を自分の名義に移し,他人に売却するところだと聞きました。仮に,兄がこの土地を他人に売ってしまった場合,私の遺留分はどうなりますか。

A

1 遺留分権利者と遺留分割合
 直系卑属の相続人は遺留分権利者ですので(民法1028条),息子は遺留分を侵害された場合,侵害者に対して遺留分減殺請求を行うことができます。
また,直系卑属が相続人の場合の遺留分割合は,法定相続割合の2分の1です(民法1028条,1044条,900条,901条)。問いのケースのように,父が死亡して相続人が子2人の場合,子の法定相続割合はそれぞれ2分の1ですから,これに2分の1を乗じた結果,遺産の4分の1がそれぞれの遺留分割合です。

2 減殺請求の対象物を第三者に譲渡した場合
 では,兄が遺留分減殺請求の対象となる不動産を売却してしまった場合はどう考えればよいでしょうか。
(1)遺留分減殺請求の前に譲渡した場合
 遺留分権利者が減殺請求権利を行使する前に,受贈者(生前贈与を受けた者)が対象財産を第三者に譲渡した場合,遺留分権利者にその価額を弁償しなければなりません(法1040条1項本文)。そして,受遺者(遺贈を受けた者)が減殺請求される前に,第三者に譲渡した場合についても同様に解されています(同条項類推適用)。
 なお,対象財産の譲渡を受けた第三者が,譲渡の時点で遺留分を侵害することを知っていた場合(悪意)には,この第三者に対して遺留分減殺請求権を行使することもできます。
(2)遺留分減殺請求の後に譲渡した場合
 遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すると,遺留分を侵害する贈与や遺贈は遺留分侵害の限度で抗力を失い,その権利は当然に遺留分権利者に復帰すると解されています(形成権説)。
他方で,この財産を受贈者または受遺者が第三者に譲渡した場合,不動産の場合は先に登記を備えた方が,動産の場合は先に引渡しを受けた方が,優先します。この場合の登記や引渡しを対抗要件といいます。
 したがって,遺留分減殺請求権を行使した時点で対象財産は遺留分の限度で遺留分権利者の財産になっているとはいえ,これを受贈者または受遺者が勝手に処分し,第三者が対抗要件を備えてしまえば,遺留分権利者は第三者から財産を取り返すことは原則としてできなくなります。
受贈者または受遺者のこのような処分行為は,民法上の不法行為(法709条)にあたります。遺留分権利者は,自己の財産を不法に処分した受贈者または遺贈者に対し,遺留分相当額を損害賠償請求することができます。

3 ご質問について
 上記のとおり,弟は兄に対して遺産の4分の1の限度で遺留分減殺請求が可能であり,減殺請求の前に兄が遺産を第三者に処分した場合,兄に対して相当額,すなわち250万円相当の価額賠償を求めることができます。仮に,兄から土地を譲り受けた第三者が弟の遺留分侵害について知っていた場合(悪意)はこの第三者に対して遺留分減殺請求を行うことも可能です。
 また,既に兄が土地を売却してしまった場合は,兄に対して不法行為に基づく損害賠償請求として250万円の支払いを求めることができます。

「参考文献」
潮見佳男『相続法第二版』弘文堂
片岡武・管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版
安達敏男・浦岡由美子・國塚道和『Q&A相続・遺留分の法律と実務』日本加除出版

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