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相続人に行方不明者がいる場合

相続人に行方不明者がいる場合

Q

父が死亡し,娘2人が相続人となりました。長女は夫の破産をきっかけに5年前から音信不通で今も行方がわかりません。長女の行方が今後もわからない場合,どうやって遺産分割を進めていけばよいでしょうか。

A

1 相続人に行方不明者がいる場合の処理
 遺産分割協議は相続人全員によってなされる必要があり,相続人の一部を除いて行われた遺産分割協議は原則として無効と解されています。したがって,相続人の中に連絡がとれない者があり,手段を尽くしても行方がわからない場合には,遺産分割協議に先立ち,次のいずれかの手続きをとる必要があります。
(1)不在者財産管理制度
 行方不明の者が生存しているという前提のもと,行方不明者の財産管理人を選任する方法です。この場合の行方不明者は「不在者」と称されます。
 家庭裁判所は,利害関係人(たとえば相続人)または検察官の申し立てにより,不在者の財産管理人を選任することができます(民法25条1項前段)。財産管理人に選任された者は,不在者の財産管理を行う権限を有しますが,保存行為,利用行為及び改良行為を超える行為については個別に家庭裁判所の許可が必要です。
 遺産分割行為は,保存行為,利用行為及び改良行為を超える行為にあたりますので,財産管理人が遺産分割協議を成立させるには,事前に分割案を家庭裁判所に提示する等して許可を得ることになります。
(2)失踪宣告制度
 行方不明者について失踪宣告を受け死亡したとみなす制度です。この場合の行方不明者は「失踪者」と称されます。失踪宣告には普通失踪と特別失踪とがあります。
ア 普通失踪
 失踪者の生死が7年以上明らかでないとき,利害関係人は家庭裁判所に請求して失踪者の失踪の宣告を受けることができ,その結果,失踪者は失踪期間(7年)満了時に死亡したものとみなされます(民法30条1項,31条)。
イ 特別失踪
 特別失踪とは,戦争,震災,遭難などの危難に遭遇し,これら危難が去った後1年間にわたり生死が不明である場合に,利害関係人の請求により家庭裁判所が失踪宣告を行うものです。この場合,危難が去った時点で死亡したとみなされます(民法30条2項,31条)。
 普通失踪または特別失踪により死亡したとみなされた場合,失踪者につき相続が開始します。したがって,失踪者に相続人がいる場合にはその相続人が失踪者に代わり遺産分割協議に加わり,失踪者に相続人がいない場合には,失踪者を除いた共同相続人間で遺産分割協議を行うことになります。

2 ご質問について
長女は,5年前から行方不明で連絡がとれません。現状でとり得る方法を検討すると,長女の所在不明の原因は震災等の特別の危難によるものではないため,「特別失踪」の要件は満たしません。また,「普通失踪」で求められる7年間の生死不明という要件も満たさないため,「失踪者」にも該当しません。
したがって,長女については共同相続人である次女が申立人となり家庭裁判所に対して不在者の財産管理人の選任を求めるのが適切でしょう。

「参考文献」
東京弁護士会相続・遺言研究部『遺産分割・遺言の法律相談』青林書院
東京弁護士会相続・遺言研究部『Q&A相続・遺言110番―トラブルを起こさない相続・遺言の知識―第三版』民事法研究会

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