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相続人に対する生前贈与は、相続開始から1年以上前にしたものであっても遺留分算定の基礎となる財産に含まれ、かつ遺留分減殺請求の対象となりますか

相続人に対する生前贈与は、相続開始から1年以上前にしたものであっても遺留分算定の基礎となる財産に含まれ、かつ遺留分減殺請求の対象となりますか

Q

先日亡くなった私の父Xの相続人は、私、私の兄A、私の弟Bの3人です。私は生前から父Xと折り合いが悪く、疎遠になっていましたが、兄Aは長男というこ ともあり、Xから特にかわいがられ、食べていくのに不自由がないようにと、今から10年前に収益物件であるマンション(当時相当の価値がありました)の生 前贈与を受けました。

その生前贈与後もことあるごとにXはAやBに生前贈与を繰り返し、結局亡くなるときには遺産はほとんど無くなってしまっていました。

私としては、相続人の1人として、父XがAに対して行った、10年前のマンションの生前贈与についても遺留分減殺請求の基礎財産に加算した上で遺留分を計算し、Aに対して遺留分減殺請求権を行使したいと思っています。

しかし、法律を見てみると、遺留分減殺請求の基礎財産には、

(1)相続開始前の1年間にした贈与や、(2)当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与しか含まれない、とされています。

とすると、10年前の生前贈与は、遺留分減殺請求の基礎財産に加算されず、かつ遺留分減殺の対象とならないのでしょうか。

A

ここでの問題は2つあります。

(1)特別受益である生前贈与は、民法1030条の要件を満たさない場合でも遺留分算定の基礎となる財産に算入されるのか
(2)同生前贈与は減殺の対象となるかです。

(1)については、民法1044条が民法903条を準用することから、相続人に対する生前贈与(つまり特別受益)は、民法1030条の定める要件を満たさ ないものであっても、すべて遺留分算定の基礎となる財産に加えられることにはほぼ異論がありません(最高裁昭和51年3月18日判決)。
ですから本件でも、10年前に生前贈与されたマンションについて、遺留分算定の基礎となる財産に加えて計算することができるということになります。

問題は(2)です。
この点については最高裁平成10年3月24日判決がなされるまでは、学説上争いがありました。 しかし、同最高裁判決は、

民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、特段の事情のない限り、民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。

としました。 したがって、原則として本件でも10年前のマンションの生前贈与について遺留分減殺の対象とすることは可能です。
もっとも、同判決の言う「特段の事情」がある場合には、遺留分減殺請求の対象とならないことがあり得ることになります。
具体的には

右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなど

の事情を指します。例えば、何十年も前にある相続人が自宅用の土地の贈与を受け、現在当該土地が当該相続人の唯一の財産である場合などが想定できます。

以上をまとめますと,最高裁が指摘する『特段の事情』がない限り、本件でも10年前のXからAに対する生前贈与は遺留分減殺請求の基礎財産に含まれ、かつ遺留分減殺請求の対象となる、ということになります。

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