MENU

よくある相続法律相談consultation

>
相続人の近親者への贈与は特別受益にあたるのでしょうか

相続人の近親者への贈与は特別受益にあたるのでしょうか

Q

父が先日死亡しました。母は既に他界しているため,相続人は,私(長女)と弟(長男)の2名のみです。
父は農業を営んでいました。私は25歳のとき,教師である夫と結婚したのですが,跡取り候補の弟がまだ10歳と幼かったため,弟が高校を卒業するまで,私達夫婦と両親は同居をし,私は父の所有する田畑の耕作に従事していました。
弟が高校を卒業し,家を継ぐことになったので,私は父から田畑を一部譲ってもらい,両親とは別の場所で居住して,農業をすることになりました。農業を実際に営んでいるのは夫ではなく私でしたが,夫をたてるという意味で,贈与を受けた田畑については夫の名義で登記手続をしました。
このたび,父の遺産について,弟と遺産分割協議をしているのですが,弟は,夫名義の田畑について,実質は私への贈与であるから,私の特別受益に該当し,父の遺産に持戻すべきであると主張してきました。
しかし,私としては,あくまで名義は夫であり,夫は相続人ではないので,私の特別受益には該当しないと思っているのですが,弟の言うとおり私の特別受益に該当するのでしょうか。

A

1 本件の問題点と結論
本件は,被相続人が相続人の近親者(配偶者・子)に対して贈与をした場合,これらの贈与は相続人の特別受益に該当するのかという問題です。
被相続人の相続人の近親者に対する贈与は,原則として相続人の特別受益にはならず,持戻しの対象とはなりません。なぜならば,相続人に対する贈与のみならず,相続人の近親者に対する贈与まで特別受益に含めるとすれば,いかなる範囲の近親者に対する贈与が特別受益にあたるのかの判断が困難となり,かえって紛争を増加させることになりかねないからです。
したがって,祖母から孫へ渡される入学祝などは,原則として,子(孫からすると親)の特別受益とはなりません。
しかし,実質は相続人に対する贈与であるのに,名義のみ相続人の配偶者・子としたという場合には,例外的に相続人の特別受益に該当すると考えられています。それは,特別受益について定めた民法903条1項が,当事者の実質的公平を図ることを趣旨としており,このような場合について特別受益としなければ,当事者の実質的公平を害する結果となり,特別受益を定めた法の趣旨に反するからです。
まさに本件は,農業に従事しているのは,あなたの夫ではなくて,あなたですから,実質的にはあなたに対する贈与であると判断され,あなたの特別受益に該当する可能性が高いといえます。

2 裁判例の紹介
本件は,裁判例(福島家庭裁判所白川支部昭和55年5月24日家裁月報33巻4号75頁)をもとにしています。この裁判例では,相続人の近親者に対する贈与が相続人の特別受益に該当するかどうかの判断基準について,以下のとおり述べています。
「遺 産分割にあたっては,当事者の実質的公平を図ることが重要であることは言うまでもないところ右のような場合,形式的に贈与の当事者ではないという理由で, 相続人のうちある者が受けている利益を無視して遺産分割を行うことは,相続人間の実質的な公平を害することになるのであって,贈与の経緯,贈与された物の価値,性質これにより相続人の受けている利益などを考慮し,実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められる場合には,たとえ相続人の配偶者に対してなされた贈与であってもこれを相続人の特別受益とみて,遺産の分割をすべきである。」
また,相続人Aの子(被相続人の孫)が被相続人から教育費や生活費の援助を受けていた場合について,この援助が相続人Aの特別受益に該当するかというこ とが問題となった裁判例(神戸家裁尼崎支審昭和47年12月28日家裁月報25巻8号65頁)もあります。この裁判例では,相続人Aが子を置いて家出をしたという事情があったため,被相続人の援助は相続人Aが本来負うべき子の扶養義務を怠ったことに起因し,実質的に相続人Aが贈与を受けたのと選ぶところが ないとして,相続人Aの特別受益に該当すると判断しました。

上記の裁判例から明らかなとおり,諸般の事情から,実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められる場合には,例え近親者に対する贈与であっても例外的に相続人の特別受益となる場合があるのです。

よくある相続法律相談 一覧