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当相談所の解決事例example of the solutions

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相続開始後の使途不明金が問題となった事例

相続開始後の使途不明金が問題となった事例

 母が亡くなりました。すでに父は亡くなっており、私と姉しか子どもはいませんでしたので、私と姉の二人が相続人となります。ただ、私と姉は小さい頃からあまり仲が良くなく、双方が成人してからはあまり交流もありませんでした。母の葬儀は、姉が取り仕切って行いました。葬儀費用は、姉が母の預金から出金をして出しました。また、姉は、母が亡くなる前に入通院していた病院の費用も、母の預金から支払ったと言っていました。母の遺産分割について、姉と話し合いが始まりましたが、案の定トラブルが発生しました。  姉は母の預金通帳について開示しようとせず、話し合いを全く前に進めようとしないのです。そこで、私はやむを得ず、母の預金口座のある銀行に行って、母名義の預金口座の取引履歴を取り寄せました。また、葬儀費用について、寺と葬儀屋に金額を問い合わせをし、に母が入通院をしていた病院に領収書の再発行を求めました。母名義の預金口座の取引履歴を確認すると、母が亡くなった直後に葬儀費用と入通院費以上の多額の金額が出金されていることが判明しました。母が亡くなった後に母の預金を管理していたのは姉ですから、この出金は姉以外に考えられません。姉に対して説明を求めましたが、姉からは特に何の説明もありません。また、母が住んでいた家は、元々祖母と母が住んでいた家なのですが、祖母が亡くなった後、特に遺産分割はせずに、名義は祖母のまま母が住んでいたのでした。したがって、母が住んでいた家についても遺産分割をしないといけないのですが、姉がどうしたいのかについて、態度がはっきりせずに、そのままになっています。どうしたらいいでしょうか。

事件の進行

 当事者同士の話し合いでは、なかなか前に進まないということで、依頼に来られたため、依頼者の代理人として、交渉ではなく、直ちに家庭裁判所に対して、遺産分割の調停申し立てを行いました。
 このケースの場合、遺産分割をしなければならないのは、母名義の預貯金と祖母名義の不動産(土地及び建物)です。
 そこで
 (1)母についての遺産分割と
 (2)祖母についての遺産分割
 の2件について申し立てをしました。
 当方に弁護士が付いたことにより、姉側にも直ぐに弁護士が付きました。
 (1)について、多額の出金の合計と葬儀費用及び入通院費用の合計とが合致しないので、差額につき、既に姉が遺産を受領したことを前提とした主張をしました。
 (2)について、依頼者は不動産を取得する希望がありませんでしたので、姉が買い取って買い取り金額のうちの2分の1を当方に支払うか、若しくは不動産を売却し売却金を2分の1ずつ分けることを主張しました(一方が買い取って、他方が金銭を支払う分割方法を「代償分割」、不動産を売却して売却金を双方で分けることを「換価分割」と言います)。
 調停では、(1)の差額(使途不明金)が、案の定争いとなりました。姉側からは差額について、母のために色々と姉が支出をしたという説明がなされましたが、差額の全額の使途を説明するまでには至りませんでした。
 このまま話し合いがつかなければ、調停は不成立となります。また、こうした使途不明金の問題は、原則として遺産分割の対象とはならないため、調停が不成立となった場合には、家庭裁判所では判断がなされず、地方裁判所に対して、使途不明金についての裁判を提起しなければなりませんでした。
 そこで、依頼者と相談をしたところ、時間をかけてでも徹底的に真相を解明して姉を追及するのではなく、なるべく調停での早期解決を目指したいとの意向でしたので、使途不明金の全額ではなく、一部については問題にしないという譲歩案を姉側に提示しました。
 姉側は、当方の譲歩案を受け入れましたので、(1)の問題はひとまずクリアとなりました。
 次に(2)ですが、姉側が取得を希望せず、売却をして売却金を双方で分けること(つまり換価分割です)を希望したため、双方で協力をして売却先を見つけることとし、より高い金額で売却することを目指しました。
(1)の問題がクリアになった時点で、(2)の不動産の売却先はまだ見つかっていませんでしたが、母の遺産分割と祖母の遺産分割とをバラバラに調停を成立させるのではなく、一挙に解決することを目指しました。
 そこで、(2)の売却先を見つかる間に、せっかくクリアになった(1)の問題を双方で蒸し返すということをしないために、双方で中間合意書を交わすこととし、(1)の問題を後から蒸し返さないという合意をして、(2)の不動産を協力して売却することになりました。
 まもなく、(2)の不動産は売却することができましたので、
(1)の使途不明金の一部について、既に姉側は受領したことを前提とし、その分、当方は母の預金を多く受領する
(2)の不動産の売却金について、仲介手数料や登記手続費用(名義を祖父から双方に名義変更する手続)等の諸費用を差し引いた2分の1を双方で分ける
 という内容の調停が成立しました。

弁護士からのコメント

1 証拠収集の点

このケースでは、依頼者の方は弁護士に相談に来る前に、集めなければならない証拠(預金の取引履歴や入通院の領収書)を既に収集していましたので、弁護士が遺産の調査をするという手間が省けました。
依頼者の方が収集した証拠をもとに、すぐに整理をすることができましたので、調停の申し立てを早く行うことができました。
このようなケースばかりではなく、被相続人の遺産の内容が不明なケースも多いのですが、そのような場合には私達弁護士が一から遺産調査を行うことも少なくはありません。

2 使途不明金の点

このケースは、被相続人が亡くなってからの出金であり、かつ通帳を保管していたのが姉でしたから、姉が出金を行ったことが明らかでした。さらに出金のうち、使途が判明している部分(葬儀費用や入通院費)も明確でしたので、差額について、姉が受領したことがはっきりしているケースでした。
通常問題となるのは、被相続人の生前に出金されているケースです。この場合、相手方が受領したという立証をするのは非常に難しいことが多いです。
相手方が出金したことを立証できても、出金した金額をそのまま被相続人に手渡したということが主張されることも多く、そうすると、相手方が受領したということまで立証するのが難しいためです。
このケースでは、比較的立証は容易でしたが、上述したとおり、使途不明金の問題は、相手方の同意がなければ、遺産分割の対象にはなりませんので、調停が不成立となった場合、別途地方裁判所に訴訟提起しなければなりません。

このケースのように、別途訴訟提起をした場合に勝訴の見込みがあったとしても、時間と費用(弁護士費用など)を考えると、訴訟提起をするよりも、少し譲歩をして調停で早期に終わらせたいと考える依頼者は少なくありません。相続事件は親族間の対立ですので、現在紛争をしていること自体が依頼者にとってストレスなのです。

3 不動産の遺産分割の方法について

このケースでは、双方ともが不動産の取得を希望しなかったため、双方で協力して売却をし、売却金を双方で平等に分けるという方法となりましたので、解決までが非常にスムーズでした。
どちらかが買い取る場合には、当該不動産の評価額をいくらにするかという点が問題となります。買い取りを希望する側はなるべく安く買いたいと考え、相手方に買い取ってほしいと考える側はなるべく高く売りたいと考えるためです。したがってそのような処理方法をする場合には評価について双方の見解が対立して紛争が長引くことも少なくありません。
このケースのように、協力して売却する場合には、双方どちらにとっても、高くで売却できた方がいいですし、売れた金額そのものを平等に分けることになりますので、評価額は問題とはなりませんし、解決までが非常にスムーズなのです。

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